日本人の生産性は低い。理由は主に三つだと私は考えている。リスクを許容できない精神的弱さ、中庸を重んじる論語的思想、そして労働時間に対して支払われる報酬システム。これらが上手く絡み合っているせいで生産性はガタ落ちである。
日本人は総じてリスクを回避しがちな人種である。例えば、大学受験となると、複数の大学を受験し、就活の時期になると、複数の会社の面接に進む。もちろん、リスクヘッジは必要だし、リスクは回避できるに越したことはない。
ただし、上記の例はリスク分散といって、リスクマネジメントの一つの手法であって、それが完璧な対応策というわけではない。何より気に留めておかなければならないのは、リスクを分散したところでリスクがなくなるわけでもないし、実は全く反対の手法であるリスク集中の方が効果的な場合だってある。
そして、本当に一番考えなければならないのは、リスクを回避するためには、お金と時間が余分にかかること、である。
会社に入ってずっと思っているのは、皆”とりあえず”リスクを避けようとすることだ。「どこまでのリスクは排除し、どこまでのリスクは許容するのか」という定量的な考えを全く持っていない。
一つの例として、自宅の鍵の数による行動の変化は興味深い。鍵が一つしかない家に住んでいるときには鍵を一つしか閉めていなかったのに、次に引っ越した家に鍵が二つついていれば、ほとんどの人は二つとも鍵を閉める。
これは自分の中でのリスクに対する定量的な考え方をもっていないからである。とは言え、そこまでやる必要ある?ではなく、手間もほとんど変わらないし二つ閉めといた方が安全だろう、という風に考えるのが人間の自然な心理なのだ。
ただやっかいなのは、一度高くなったセキュリティレベルを下げることには抵抗を感じてしまうことだ。例えば、オートロック付きのマンションに住んでいた人がオートロック付きではないマンションへ引っ越そうとすると不安になったりする。これも人間の自然な心理なのだ。「子供の居場所を常に把握していないと不安」だから携帯を子供に持たせるなんて、一昔前の大人は思っちゃいなかったはずである。
つまり、何も考えていないと、ほとんど起こるかもわからないリスクに膨大な時間とお金を奪われていく方向に流れてしまうのだ。だから価値を創出する時間に多くを避けなくなっている。なので、不祥事を避けるためなどと言って、簡単にルールを作らないことだ。
たぶん海外の企業が結構有名な企業でも裁判沙汰になったりするのは、「これ以上のリスクに対しては対策を打たない(お金と時間が無駄だから)」と腹をくくっているからだと察する。私も明日からは家の鍵は一つしか閉めないと今決めた。
次が、中庸的な思想である。端的に言えば、全部頑張りましょう、というスタンスだ。
仕事を速く進める上で大切なことの一つに優先度付けというものがある。どの仕事が最優先で、どれを後回しにしてもいいのかを考えて本当に今やる必要のあることから片付けるという考え方だ。
でも、私は日本人の優先度付けはあまりに不完全だと思っている。それは、優先度が低くても、いずれはやるもの(やらなければならないこと)として常に考えられているからだ。
それでは、タスクの順番が変わるだけで、仕事量としては何一つ変わらない。(もちろん、ここではタスクの組み替えによって無駄な作業が省かれるケースは除外している。)優先度の低いものは無駄だから無くすべきでは?という発想がまるでない。これは先に述べた過度なリスク回避にも起因するところだ。
システム開発などをやっていると、試験工程というものがある。もっとも理想的なのは、作ったプログラムの全てを試験することで、完璧な品質が確保できる。ただし、基本的にはそんな膨大な試験をすることは労働力的に不可能である。だから、影響度の高いバグは無くすべく、かつなるべく少ない労働力で試験をするテスト技法が存在する。
しかし、試験を考えだすと、これもやった方がいい、あれもやった方がいい、というのが沢山出てくる。大きな影響はないし、やる必要ないのでは?と言っても、「念のため」とか「一応」やった方がいい、という結論が出ることがほとんどだ。
結果的に、あんまり試験としては効率的ではなくなり、稼働が逼迫するケースが多い。システム開発に限らず、「念のため」とか「一応」の仕事が日本のサラリーマンの仕事の半分以上を占めているように思う。「一応ここまではやっておくか」という言葉が脳裏に過ったら本当にこれやる必要あるのか?ということを考えてみよう。
三つ目が、労働時間に対して支払われる報酬システムである。日本型企業のほとんどはこのシステムで動いている。SIerなどはまさにこの代表例で、これだけの人がこれだけ沢山働く必要がある(何人月かかる)からこのシステムは〇〇円です、という契約がほとんどだ。そのシステムが運用されてどのくらいの利益が見込めるからとか、システム自体の価値は一切加味されていない。(加味されていたら、とっくに倒産していると思う。)
だから、生産性を高くすることによって売上が減少するというパラドックスに陥ってしまうのだ。だから生産性を上げることに関心のない管理職は多いし、いまだに過去の生産性を基準として見積もりを行っている現状である。
サラリーマン個人というミクロの視点で考えても同じことだ。2週間で終わると思われていた仕事が創意工夫によって1週間で終わらせることができたとしても、残りの1週間休めるわけではない。
他の人の仕事が与えられたり、と当初予定していた倍の仕事量を与えられるだけである。もちろん、給料は変わらない。つまり、仕事をダラダラやっている方が給料的には割がいいことになる。
それでも、私は生産性を上げた方がいいと思っている。チームとしての生産性を上げることはもう半ば諦めてしまっているが、個人としての生産性を上げておくにこしたことはない。
確かに日本型企業ではあまり給与には反映されないし、余計な仕事を与えられることも多いけど、それだけ仕事の幅は増えるし、たぶん評価には繋がる。仕事の幅とか評価とかどうでもいいなら、あんまり仕事が進んでないフリをしてサボることだってできる。
生産性を上げるためにぜひとも覚えておいた方がいいと思う具体的なスキルはVBAマクロ、VBSなどのプログラミングである。
たぶんクリエイティブな職種の中にも定常的な業務とか、決まりきった仕事は沢山あるはずで、これらの決まりきった仕事というのは、大抵自動化ができる。特に、あまり価値がないと考えられている仕事の多くに自動化の余地が残されている。
本来論で言えば、自動化するよりも前に、無駄な仕事と再定義して無くすべきなのだろうが、大きい企業とかだとこの無駄な仕事を無くすためのコストが尋常ではない。自分の課長や部長でさえ権限を持っていないがルール化されているような仕事が多い場合は、それを無くす方向で頑張るよりも最低限の労力でこなす方法を考えた方が得策である。
月に一回決まったテンプレートで出さなければならない報告書とか、エクセルへの手入力作業とかも、必ずどこかに自動化の余地が残されているし、そういう「今後長期的にやることが決まっている作業」を自動化しておくと、それだけ費用対効果は大きくなる。
もちろん、自動変換機能を使うのもいいし、メールテンプレートを複数用意しておくのも工夫としてはありだ。ただ、プログラミングの考え方を持っていれば、もう少し複雑な処理も簡単に実施できる。
一例として、私は転入書類を自動で出力するマクロを作ったことがある。
転入者(プロジェクトに新規で参画するメンバ)が入ってくると、必ず書かなければならない書類が5枚ぐらいあって、かつそれを格納するためのフォルダを作ったり、それぞれの情報を管理するために管理簿に転記したりと、普通にやると一人の対応だけでも一時間ぐらいかかる作業があった(今も存在している)。
しかし、複数の申請書に書く内容は結構重複してたりして、手入力だと非常に無駄が多い。こんなときに、マクロを使うと、一箇所に入力した情報を元に申請書に転記したり、管理簿に転記したりを一度に実施することができる。かつ複数の人がいてもそれほど時間は変わらない。たとえマクロを作るのに2,3時間かかったとしても、すぐに元は取り返せる。
こんな風にちょっとでも生産性を向上させる方法を考えながらやっていると、確実に価値の低い仕事にとられる時間は減って、仕事も面白くなっていく。
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上は個人向け、プライベート目線、下はチーム向け、ビジネス目線。一見、同じ人が書いたとは思えないけど、言ってることはほとんど同じだったり。