∑考=人

そして今日も考える。

必要か十分か

問題です。ここにある一つの部屋があります。この部屋には不思議な仕掛けがしてあり、どんなに太った人でもその部屋からは必ず痩せて出てきます。一体どんな仕掛けがあるのでしょうか。

 

なぞなぞの類です。少し知恵を使えばわかる問題ですがどうでしょうか。答えはシンプルです。「出口が狭く、細い人でないと通ることができないから」です。つまり、その部屋から出たから痩せるのではなく、痩せたからその部屋から出ることができる、というトンチです。因果関係が逆だったのです。普通に読んでいるとついつい勘違いしてしまいます。

 

このなぞなぞは興味深い示唆を与えてくれます。現実問題に適用が可能です。例えば、こんなことを言う人がいます。「厳しい環境に身を置いたから、実力を養うことができた」。成功者によくある言葉です。この言葉を鵜呑みにするなら、厳しい環境に実を置けば実力を養うことができる、と考えてしまいがちです。意識高い系、ベンチャー企業を志望するタイプが支持していることでしょう。このことについては否定するつもりはありません。確かに環境の力は大きいと思います。

 

一方で、こういう考え方もできます。「実力を身につけたから、厳しい環境でも乗り越えられた」。先ほどとは因果関係が逆です。これもあながち間違いではないでしょう。厳しい環境に身を置いたとしても途中で投げ出してしまえば意味がありません。

 

同じような例として、「留学したから英語が喋れるようになった」という意見もよく耳にします。もはや一般論になっていますし、それを裏付けるだけの仮説は多数存在します。すると、留学すれば英語が喋れるようになる、と考える人が現れます。

 

反対に、「英語が喋れるようになったから、留学生活を送ることができた」と解釈することも可能です。こう考えると、留学生活を乗り越えない限り、英語が喋れるようにはならない、と考えることができます。

 

総じて、「別の環境に身を置きさえすれば成長できる」という考え方は全て、因果関係が不十分です。数学的に言えば、必要条件であって、十分条件ではないわけです。今の環境で何もできない人が別の環境に身を置きさえすれば何とかなるという考え方は甘えでしかありません。環境を変えるのは大切ですが、差し詰め、どの環境に行っても壁を乗り越えない限り何の変化をもたらすこともないでしょう。

 

まずは今の環境に対してちゃんとコミットし、少しずつでも壁を乗り越えているのか自問自答する必要があるかもしれません。