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そして今日も考える。

義務を放棄することの大切さ

日本人は物心ついたころには、既に何か組織に縛られています。小学校を卒業したら中学、中学を卒業したら高校、高校を卒業したら大学、大学に入学できなくても予備校を挟んでからの大学、大学を卒業したら就職、あるいは大学院を挟んでからの就職。就職したらあとは定年まで働く。そこでやっとすべての義務から解放されるわけです。

 

学生の間はかろうじて夏、冬、春の長期休暇があります。でも、冷静に考えればたかだか1,2ヶ月の休みが「長期」なんて言われること自体、感覚がおかしいんじゃないかと思います。日本人ってのは面白いもので、常に相対的にしか考えられないんですよ。みんなが一緒にしんどい思いをしてるなら、自分がしんどい思いをしてても平気みたいな。私も留年するまでは、学生の休みが少なすぎるなんて考えもしなかった。

 

留年していた時は人生最大の解放感がありました。何をしてもいいし、何もしなくてもいい。私の場合はパチンコ屋のアルバイトでため込んでいたお金もあり、実家暮らしということで、まさに自由でした。正直なところ、留年で挫折したことよりも(実はあんまり挫折とは思っていない)、留年によって圧倒的な自由を手にできたことが私の人生にとっては大きかったと思います。みんな忙しそうだなーって達観してました。

 

ただ、自由という言葉の響きとは対照的に、自由が私に与えてくれたのは、希望ではなく絶望でした。やりたいことが特にない状態だと、自由なんてただの退屈でしかないんですね。毎日のように遊んでいても、面白くなくなってくるんです。この時初めて、私はただひたすら遊ぶことに見切りをつけることができました。それと同時に、今の自分のままでは何をやっても楽しいと感じないだろうな、漠然とそういう気持ちを抱いたのだと思います。

 

留年していた時は、特に何をした、というほどのことはしていませんが、強いて言語化するなら、自分探し、ということになると思います。自分ってどういう人間で、世界はどんな風になっていて、じゃあ私はどうすればいいんだろう?みたいな哲学的な自問自答が頻繁に行われていたんじゃないかと思います。

 

読書をするようになったのも、ブログを始めたのも、結局、未知の可能性にかけてみるしか選択肢が残されていなかったからかもしれません。何もしないのは退屈で、今までやってきたことが面白くないわけだから、新しいことを始めるしかありません。そんな追い込まれた状況下で、今でも習慣として続けられる2つの行動を手に入れることができたのはラッキーでした。

 

留年自体のゆるい生活は、終始自分探しで幕を閉じました。でも、次は違うことをするために、時間がほしいんですね。やりたいことが何もなかった留年自体とは違い、今はやりたいことがぼんやりながら見えてきました。だからそれをやるために時間が欲しい。そう思うのです。といっても今の忙しい研究生活を乗り越えた後に待っているのは、社会というフィールドなんですが。

 

結局のところ、「義務があるから」なんてことを言い訳にしていたら、やりたいことなんてできないし、明確にやりたいことは見えてこないと思うんですよ。東大まで行ってもやりたいことが見つからない人は沢山いるらしいですけど、あれは教育システム、というか国の空気感の弊害でしょう。小学生のころから義務を課され続けたら、やりたいことをわざわざ考える人なんて少ないはずです。どうせやらなきゃいけないことがあるのに、やりたいことなんて考えても無駄。無意識のうちにそういう風に考えてしまいます。

 

運よく、義務の中からやりたいことを見つけられた人は良いとして、そうでない人は一生やりたいことを見つけられない可能性もあります。そして、定年まで働いてやっと解放されるのです。これは国の空気感を責めても仕方がないのです。

 

全ての義務は権利と捉えなおせば視界が開けます。確かに義務は「やらなければならないこと」です。義務を果たさなければ、自分にマイナス因子となって返ってきます。でも、ほとんどの義務は、マイナス因子が返ってくるだけです。義務を放棄することで手にいれた別の権利を使って、そのマイナス因子をひっくり返すだけのプラス因子を手に入れればいいだけの話です。

 

そう考えると、別に義務なんて、一般的に優先度が高そうに見える権利に過ぎないのです。そして、一般的に優先度が高いだけで、誰しもにとって最優先の事柄でもないのです。あなたが義務だと思っているものは本当に義務なのかどうか考えてみるのもいいでしょう。冒頭に挙げた組織の縛りも、実は義務であって義務でないようなものだったりします。

 

どちらかと言えば、義務を放棄することのできなかった私が言うと、あまり説得力はないかもしれませんが、こういうゆとりを自分の中にもっていると随分と気が楽です。もし来年から働く会社を辞めることになったら、思い切って半年ぐらい休みたいなーと思います。