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そして今日も考える。

ドワンゴの受験料、オールアバウトの奨励金

最近話題のトピック、ドワンゴの受験料制度が面白いなと思ったので、ちょっと思ったところをまとめておきます。

 

近年はご存知のとおり、就職サイトのエントリーボタンをクリックするだけでエントリーすることが可能になりました。このおかげで、誰でも簡単に、気軽にエントリーすることができるようになった、というわけです。しかしながら裏を返せば、記念受験という言葉もあるように、どんなにやる気のない人でもノリだけで採用選考に進むことが可能になった、ということでもあります。

 

学生側にとってはありがたい話です。正直、就職さえできればどこでもいいという時代ですし、現に就活成功のセオリーは、どれだけ多くの面接に行くのかが勝負だ、という風潮に向かっています。

 

ですが、企業側にとっては、それが迷惑な話でもあります。選考人数が増えれば増えるほど、採用活動に負担がかかります。また、優秀でない人をいちいち選別していたら、本当に優秀な人を見過ごしてしまうリスクも増えます。

 

というわけで、本当にやる気のある人、つまりその企業で働きたいという意欲のある人だけに集まってもらうための障壁として再び用意されたのが、ドワンゴの受験料制度です。面接をするために2525円お金がかかります。ニコニコの語呂合わせになっているところが憎いですね笑。ちなみにそのお金はどこかのNPO法人に寄付されるらしいです。それはそれで議論になっていますが、今回は無視します。

 

ネットの声として紹介されているように、この考え方は確かに合理的です。やる気があった方が当然障害にも立ち向かうことができる可能性は高くなるでしょう。でも、これは企業側の都合であり、一部の学生(ドワンゴに本気で行きたいと思っており、受験料制度によって競争相手が減る学生)にとってのメリットしかありません。

 

また、反対意見として紹介されているように、これを発端に、他の企業もどうようのスタイルを始めたとしたら、学生側の経済は大打撃です。そして一番の問題点は、学生側のやる気を測るための受験料制度も、一般的に普及してしまえば元のもくあみにもなってしまう、ということです。学生にとっては何のメリットもありません。

 

どうでしょうか?就職がすでに決まっており、しかもまだ社会人でもないニュートラルの立場で言わせてもらうと、私はこの制度には反対です。

 

まず一つの理由として、額設定が極めて低い。TOEICなどの資格試験ですら倍の5000円ぐらいの受験料を取られます。さらに言えば、そんな料金設定の資格試験ですら「とりあえず」という気持ちで受ける人がたくさんいるのです。その程度の金額では本気度は測れません。少なくとも、10000円ぐらいに設定しない限り、有効な障害としては機能しないでしょう。

 

では10000円以上に設定すればいいか、というとそれも違います。高い受験料が必要になればなるほど、障壁を乗り越えるために必要なのは本人のやる気ではなく、親の財力になるからです。これが30半ばのサラリーマンの転職活動とかならまだ理解できますよ。自分で稼いだ多額のお金を払うことが、意志の強さに直結していると言えるでしょう。でも学生対象にそれをやって、本気の人だけがエントリーするようになるでしょうか。

 

この論理が成り立つとすれば、日本の大学生は、みんな勉強したい人達だけで構成されているはずなんです。だって、「本気でうちの企業に就職したいならお金を払うはずだ」という主張と「本気で大学で勉強したいならお金を払うはずだ」という主張はほとんど同じですから。後者がそうなっていないのだから、この仮説は間違っているということです。そもそも、まだ自立していない学生がお金を払ったところで、身銭を切るような気持ちにはならないのです。

 

と、まぁ反対意見をズラズラと並べましたが、社会の事象としては面白いと思っています。なぜなら、これは事実上、今の就職制度に企業側がストライキを起こしたということだからです。就活浪人、自殺者の増加など、学生ばかりが困っている状況がメディアでは取り上げられていますが、企業側も学生と同じ、もしくはそれ以上に深刻に困っているというシュプレヒコールの表面化に他なりません。今の就職制度は、ほとんどの学生とほとんどの中小企業にとってはlose-loseの関係を生み出す仕組みなのです。これについては気が向いた時に別件で書き下ろすとします。

 

さて、もっと面白いのは、オールアバウトという企業が、ドワンゴとは逆に奨励金を導入すると表明したことです。しかも奨励金の対象となるのが、「ドワンゴに受験料を払った学生」という、極めてスペシフィックな制度です。そしてその額2500円。こりゃぶったまげた笑。その制度に至った意図は以下のような論理的な仮説に基づくようです。「本気でドワンゴで働きたいと思っている」→「何かに熱中できるタイプ」→「うちに興味を持ってくれるかもしれない(うちに来て欲しい)」。仮説が正しいかは置いておくとすれば、なるほど、の一言です。

 

ただ、これはちょっと悪い方向に働き兼ねないなーというのが私の懸念です。もし、私が元々、エントリーぐらいはしておこうかなーという軽い気持ちでドワンゴを志望していたとしましょう。しかし、受験料制度を知り、お金がかかるからやっぱやーめたと考えたとします。そんな時、このオールアバウトの奨励金制度を知ったとしたらどういう行動を取るでしょうか。

 

答えは一つしかありませんね。二つの採用試験を受けることで、払う金額は25円と、障害は限りなく0になります。結局、ドワンゴの本気フィルターは機能しないことになり、よって、オールアバウトを受ける学生はそもそも本気でドワンゴを志望していない可能性が高まってしまいます。ドワンゴはちょっと焦ってるんじゃないでしょうか。

 

逆にオールアバウトはというと、一種の戦略なのではないか、と思います。私が今言ったようなことは誰でも思いつくでしょう。結局、本気の学生が集まらないことも目に見えます。もちろん、小さい可能性にかけるチャレンジングな企業なのかもしれませんが、おそらく、単純に受験人数を稼ぎたいのだと思います。

 

同額の奨励金により、ドワンゴを受ける人がセットで受けてくれる可能性は高いです。いかにやる気の学生を集めるかに注力したドワンゴとは異なり、いかにやる気のない学生をやる気にさせるか、というところに注力するつもりでしょう。量を切り捨てて質を向上させる戦略と、量の上に質を成り立たせる戦略。どちらが良いのでしょうか。今後の展開が楽しみです。