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∑考=人

そして今日も考える。

スイッチングコストに惑わされるな

システムの移行には様々な障害がある。その一つが切り替えコストと呼ばれるものだ。これは何もシステムに限った話ではないので、製品を例にとって説明しよう。

 

例えば、今私はスマートフォンを持っている。仮にそれがiPhone5Sだとしよう。事実とは異なるため、価格については知らないし、調べるのも面倒なので、仮に今50000円でiPhone5Sが購入できるとする。

 

そんな中、同じ5万円でiPhone6が発売される事になったとする。当然、スペックもiPhone6の方が高い。デザイン要素を抜きにして考えれば、iPhone6を購入する方がどう考えても良い、ということは猿にでもわかる。

 

しかし、すでにiPhone5Sを使っている私にとっては、今すぐiPhone6に買い換える、という選択は全く合理的ではない。実際に、iPhone5Sが発売された時、iPhone5をすでに持っていた人のほとんどは移行を考えなかったはずである。

 

理由は簡単で、メリットが小さいからである。現状携帯を持っていない人にとっては、5万円払うことによって、iPhone6の性能分だけのメリットを享受することができる。しかし、既に、iPhone5Sを持っている人は50000円払っても、iPhone6とiPhone5Sのスペックの差分しか手に入れられないのだ。逆に、ビタ一文出さずとも、iPhone5Sの性能分のメリットは担保される(もちろん、過去にはお金を払ってしまっているわけだが)。

 

こういった、製品を買い換える際に発生するコストを、使い慣れた製品を変えることによる心理的抵抗などとも合わせて、切り替えコストとかスイッチングコストなどと呼ばれる。企業は少しでもこのスイッチングコストを顧客に意識させないために、「今使っているスマホを買い取ります」キャンペーンみたいなことをするわけである。

 

ただし、実際の、物理媒体としてのモノや製品は、必ず劣化する。これが製造業にとっての唯一の救いでもあるし、一方では、客にとっての天敵であるかもしれない。スマホも2〜3年も使っていれば、もうボロボロで使えなくなってしまう、なんて人も多いだろう。モノは買った瞬間から減価償却されていくのだ。

 

だが、ソフトウェアは違う。ソフトウェアには寿命がないからだ。一度作ったプログラムは時間がいくら経っても破壊されることはないし、一度書いたコードが勝手に消えるなんてことはありえない。「形あるものはいつか壊れる」が、反対に、ソフトウェアは形を持たないので、決して壊れることはない

 

しかし、ソフトウェアによってシステムを実現するためには必ず基盤としてハードウェアが必要になる。そして、ハードウェアは上記の通り、必ず劣化する。ソフトを変える必要はなくとも、ハードウェアはいつかは刷新しなければならない。これこそがシステムを作る人にとっては最も悩ましい問題なのではないかと私は思っている。

 

システムにおいてハードウェアは大して重要なものではない。ソフトウェアを使ってとあるサービスないしは機能を実現することこそが、システムの存在意義である。そういった意味ではハードウェアは単なる入れ物でしか無いし、大きな価値を持つものではない(語弊はあるかも知れないが)。

 

とは言え、ハードウェアが単なる入れ物と言えるほどに単純ではない。箱が変われば、それに合わせて、中身の形も変えてやる必要がある。ハードウェアはリュックサックのように柔軟にはできていないのだ。

 

例えば、CDプレーヤーを考えてみよう。CDプレーヤーは、CDを挿入して再生ボタンを押すことで音楽を聞くことができる。私たちは製品だと思い込んでいるが、CDプレイヤーは音楽を聞くサービスを実現するためのシステムの一つなのである。規模は非常に小さいが、システム同様、ハード(プレイヤー)とソフト(ここではCD本体とする)によって構成されている。

 

では、CDプレイヤーが壊れてしまったとしよう。このとき、最先端、高機能なMDプレイヤー(今はもはや死語であるが)を使いたいと思ったとしても、そういう発想にはならない。MDプレイヤーをハードとして選定するのであれば、ソフトウェアとしてMDをゼロから作らなければならないからだ。

 

システムを購入する立場の人にとっては、刷新することによって実現できる機能が極めて革新的でも無い限り、ハードウェアを変えるメリットよりもスイッチングコストの方が目立ってしまう。結果的に、じゃあ今回もCDプレイヤーをハードウェアとして選定しましょう、という話になるのだ。

 

こうやって、私が担当することになったシステムを動かすための端末は、FDDを基盤としているフロッピーディスクドライバ。要するに、フロッピーディスクによる操作でシステムのメンテナンスを行っているのだ。もはや何十年前の技術かわからない笑。

 

システム屋としては、こういったお客さんたちにいかにメリットを提供して、スイッチングコストを低減させることができなければならないかを考えていかなければならないのだろう。一方で、お客さんの立場で考えるのであれば、目先のスイッチングコストにいつまでも惑わされずに、先を見据えてバージョンアップしていかなければならないと思う。