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そして今日も考える。

人月見積もりで価格が決定されるという理不尽

価格とはどのように決定されるのか。例えば、あなたがスターバックスに行ってコーヒーを注文するとする。通常のtallサイズなら320円だ。このとき、320円は一体に何に対する価格なのか。

 

一番に考えられるのは材料費だ。コーヒー豆自体の価格ということになる(もちろん、コップなども含まれる)。詳細に考えると、この価格にはコーヒー豆を店舗で用意するまでの輸送コストなども含まれていることだろう。

 

そして、忘れてはいけないのが人件費である。tallサイズであれば320円なのに、およそ倍くらいあるGrandeサイズが360円しかかからないことに誰しも疑問を持ったことがあるだろう。これは人件費によるものだ。

 

人件費が一体どのくらいなのかをおおよその単純計算で考えてみよう。

 

コーヒーのtallサイズ1杯に人件費がx円含まれているとする。このとき、コーヒー自体の価格は(320-x)である。Grandeがtallの2倍の分量だと仮定すると、コーヒー自体の価格は2(320-x)で計算できる。そして、そこに人件費xをプラスした価格が360円となっているわけであるから、

 

2(320-x)=360

 

という方程式が成り立つ。これを計算すると、x=140円である。つまりコーヒー1杯あたり人件費が140円ぐらい含まれていることがわかる。5分で一杯のコーヒーができる(140円儲かる)とすると、本来の時給額は12×140=1680円と計算できる。

 

もちろん、実際には店舗の維持費など様々な経費を考慮しなくてはならないので、ここまで人件費が高いわけではないだろうが、計算のプロセスとしてはだいたいこんな感じである。

 

上記の例では、材料費と人件費を分けているし、分けて考えるのが一般的だ。しかし、材料費も元を辿れば人件費に他ならない。例えば、我々は500mlのペットボトル飲料は?と聞かれれば、おおよそ100円〜150円ぐらいと答えることができる。

 

では、その100円〜150円という価格はどのように定まっているのか。これは、ペットボトル飲料を作成するまでにかかった人件費の総量なのである。人件費の定め方に明確なルールはないものの、一定時間に対する費用の割合であるという事実は変わらない。つまり、単純に考えるとその製品を作るためにどれだけの時間がかかったのかを示すのが製品の価格であると考えて良い。

 

形のない製品であるサービスについても同様だ。キャバクラやガールズバーに行ったときに、信じられないくらいの料金が発生して驚いたことのある人もいるだろう。この場合においても、そのサービスを提供するためにどれほどの時間がかかったかを示すのがそのサービスの価格である。料金が高いのは、単位時間あたりの労力、負荷、犠牲が他の職種に比べて大きいと評価されているからである。(需要と供給の関係が価格に与える影響については今回は無視する。)

 

そして、世の中にあるほとんどの製品やサービスについては価格が概ね確立されている。少なくとも利益が出ないような価格設定になることはない。なぜなら、既に発生した労力の対価として金額を設定することができるからである。

 

ただし、販売するのがシステムである場合、このように価格を設定することは不可能である。なぜなら、(受託開発においては)システムが完成してから販売するのではなく、システムを作る前に契約を締結するのが主流だからだ。かっこ良く言うと、SIerの営業とは夢を売る仕事なのである。

 

とは言え、価格を設定にあたって考えられるのは、やはり人件費である。IT業界では「人月(1人が1ヶ月で捌ける仕事量)」という単位で計算されるのが一般的だ。もちろん、会社によって単価が異なる。システムの世界では、この「人月」という単位で見積もりが立てられる。

 

ただし、システム開発が見積もり通りに上手くいくことはほとんどない(と思う)。人月という言葉が示すように、開発プロセスのほとんど(というかほぼ全て)に人が関わっているからだ。

 

機械のようにいつも一定の効率で作業を進められるはずがなければ、エラーが想定内におさまるはずもなく、その対処に多くの時間を奪われる。そんなわけで、最終的に赤字となるプロジェクトも少なくない。(中には、お客様に納品できればたとえ赤字であっても成功だと主張する会社すらある。)

 

この、人月計算で見積もりを立てることに対して問題視する声はずっと存在しており、そういった背景からアジャイル開発などへの関心が高まってきているのは事実である。しかし、現在もなお、ウォーターフォールモデルと呼ばれる、初めに要件を固めて見積もりを出す、というスタイルから脱却できないでいる会社は多い。

 

確かに人月で見積もりを立てること自体にも問題はあるのだろうが、個人的には、そもそも発注側(お客さん)のリスクをSIerが引き受け過ぎなのが一番の問題なのではないか、と思っている。この理不尽な構造変えたいよね。