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そして今日も考える。

評価する技術

書店に行くと、タイトルに「誰からも愛される〜」や「上司から評価される〜」といった類の文言が入った本がたくさんある。これらはどれも、他人から承認される、人から良い評価を受けるための行動集だ。

 

このような書籍がずっと存在していること自体、アドラーの言うように、人の悩みなんてほとんどが対人関係に起因していること示す証でもある。一方でアドラーの発言とは異なり、ほとんどの人間は承認欲求を持っているということなのだろう。

 

真偽はともかく、前述のとおり他人から評価を受けるためのノウハウは既に多く存在している。しかし、その真逆である評価する技術に関して言及されている書籍は非常に少ない。というか私は見たことがない。

 

もちろん、評価する技術が存在しないわけではない。我々SIer企業の中にも、「品質評価」という、システムの品質を評価するための方法論が存在するし、ビジネスやアカデミックな業界では、評価することに関しての需要がある。ただ、それはいわゆる一般大衆向けではない。そのため、評価する技術を学ぼうと思えば「評価学」みたいな専門領域に足を踏み入れることになるだろう。

 

私たちが普通に生きていく上で、評価する技術をちゃんと学ぶ機会はあまりないし、ちゃんと学ぼうと思うことも少ない。例えば、男はすれ違う女の人が可愛いかどうかを日常的に評価するけれども、可愛いかどうかを判断するための方法論まで確立するような人はいない。

 

理由は主に2つある。一つは、人が何かについて評価するなんて、当たり前すぎるし、身近過ぎること。人間は誰しも好き嫌いがあり、それこそがデジタルに良し悪しを判断する軸になっている。良いか悪いかを判断することも、確かに評価の一つではある。

 

もう一つは、何かを正しく評価することについて大したメリットを感じられないためである。基本的に9割の人間は自分にとって良いか悪いかが分かればいいと思っている。どの程度良いか、どの程度悪いかを判断してこその評価であるが、そこまで精密な評価は私生活において必須事項ではない。

 

こういった理由があり、今更評価が全くできないなんて人間はいないし、だからこそ改めて評価する方法について考えることなどないのだ。ただし、良し悪しの判断だけが評価ではない。本来、評価というのは、正しい価値を定める行為である。

 

正しい価値を定めるには、「どの程度」というのが重要になってくる。すると、「定量化」と「比較」が必要となる。これらを兼ねているのがランキングだ。テレビ番組やネットには多くのランキング情報が登場する。私たちが何かを真剣に評価しようと考えた時には必ずこのランキングを参考にしているはずだ。

 

ランキングを評価指標と言い換えてもいい。言ってみれば、評価指標とは評価するためのツールである。そして、評価指標の存在が、評価する技術を学ばない第3の理由と言ってもよい。ランキング形式のデータであれば、どれがどの程度良いかを簡単に評価することができる。

 

しかしながら、それは本質的に評価をすることとは異なる。どうも私は、色んなランキングで上位になるものが良い(もちろん、そういう傾向は強いのだけれど)と信じ込んでいる人が多いような気がしてならない。

 

もちろん、そういう価値観が間違っているとは言わない。ただ本当の評価とは、全員にとって齟齬がないものを目指すのではなく、自分にとって何が本当に良いのかを見極めることにあると思う。少なくとも私生活ではそうである。就職ランキング上位の会社に入ったところで幸せにはなれない。

 

正しく価値を推し量るためには、一定のプロトコルが必要になる。すれ違う女性が本当に可愛いかどうかを正しく評価するするにはやはり方法論が必要になるのだ。そして、それは世間や評論家が勝手に作り出したものではなく、自分で考えたものである必要がある。複数のプロット点を丸暗記するのではなく、全てのプロット点が乗っかる数直線を集出するイメージだ。その数直線こそが自分を表すはずだ。

 

今は評価経済社会なんて言われるほど、評価が大切な時代になった。もちろん、ここでの評価は「人から受ける評価」のことを示している。しかし、そんな時代だからこそ、正しく評価する能力も大切になってくるはずだ。そして、ビッグデータなんかでは抽出できないぐらい偏っている方が良いし、かつ一貫性があった方がいいんじゃないだろうか。

 

別に評価することなんてどうでもいい。そう考える人もいると思う。しかし、実際には評価されることと評価することは表裏一体の関係にある。自分が正しく評価する技術を持っていれば、他人からも評価されて当たり前なのである。(もちろん、自分が評価するであろう行動を自らが実践していれば、に限る。)そんなわけで、実は評価されるために必要なのは正しく評価する技術を身につけることと言っても過言ではない。