∑考=人

そして今日も考える。

「近い将来人類がAIに支配される時代が来る」とかよく聞くけど、もう既に人間はコンピュータの知能にはついていけてないという現実

無論、IBMの開発したディープ・ブルー然り、コンピュータが知能という点で人間に優っていることは既に周知の事実ではあるかと思う。また、今まではコンピュータは論理的なことしかできない、と思われていたが、AI技術の進化によってアーティスティックな分野での進化も目覚ましい。近年では、AIがゲームを開発した、なんて話もあるくらいだ。

 

とは言え、今回私がテーマにしたい話は、直接的に人間よりもコンピュータの方が賢くなってしまう、ということではなく、既にコンピュータは人間の理解を遥かに凌ぐものへとなってしまっていることに対する言及である。

 

私はシステムを作る会社(通称SIer)で仕事をしている。SIerとしての仕事の本質は当然システムを作り上げることであり、プログラムを作ることがメインである。システム開発をあえて擬人的に表現するのであれば、お客さんが求めることができるような凄いことをできる人を教育する仕事である。

 

通常、人材の育成というのは非常に時間がかかる。一度教えたことを忘れないように繰返し同じことを教えたりしないといけないし、教えた通りにできない場合もある。また、一度に複数のことを教えることはできない。もちろん、人間の場合は勝手に学ぶこともあるという利点はある。

 

一方で、ソフトウェアというのは育成がシンプルである。一度ソースコードを書き込めば、絶対にその処理を実行できるようになる。そして、複数の人が一変に色んなことを教えても、その全てを吸収することができる。聖徳太子の比ではない。そのため、人海戦術的に短期間でも膨大な知識を教えこむ事が可能なのだ。基本的にシステム開発はそのように進められる。

 

また、システム開発というのは一度で終わり、というわけではない。実際に使ってみてこんな所が悪い、こんなこともできるようにしてほしいという要望が必ず登場してくる。すると、一度作ったものに対して機能追加を行う。言うなれば、スーパーマンを育成したが、さらに再教育を施しウルトラマンにする、ということである。

 

実際、システム開発案件のほとんどは機能追加である。そして、何度も何度も機能追加が行われた末、今稼働しているシステムの形になっている。ということは、ほとんどのシステムはもうハイパースーパーウルトラマンみたいな感じ。

 

しばらくすると、お客さんからこんなことを言われることもある。次はハイパースーパーウルトラマンの女子版を作ってよ、と。これはサーバ更改とか言われる、ソフトウェアをのせるためのハードウェアだけをよりスペックの高いものに交換するものだと思ってもらえれば良い。こういった要求をされるとSIerは非常に困る。

 

無論、できないわけではない。ただ、お客さん的には、すでにこんなハイパースーパーウルトラマンがいるのだから、これと同じものをまた作るだけやんと。でも、それを作るのに1000人が関与していたとしたら、単純には同じくらいの人手が必要になる。

 

もちろん、通常は”移植性”というソフトウェアを別のハードウェアに移行しやすい設計を考慮しているはずなので、サーバ更改ぐらいであれば1000人もの人手は要らない。ただし、リファクタリング(=ソースコードを良い設計に書き換えること)などをしようと思うと同じくらいのインパクトはあると思う。

 

たぶん最初にスーパーマンを教育した人達は、自分たちがどんなことを教えたのかを理解している。スーパーマンからウルトラマンへと進化させた人も、何を教えたのかを理解している。しかし、ハイパースーパーウルトラマンになった今、担当している人が、はるか昔にどんな教育をしたかを理解していることは稀であるし、理解するための手がかり(設計書など)が完璧に残されているかどうかも怪しい。

 

結局、ハイパースーパーウルトラマンは凄いことができるけど、どんなことができるのかを人間側が把握できないでいるのだ。だから次に同じ教育をするためには、まずハイパースーパーウルトラマンにできることが何かを調べて、一つ一つできることを人間が理解した上で、こうやって教えよう、という方針を決めていかなければならない。しかも大量の労力によって。

 

これって、もうシステムが人間の理解を凌駕している証拠。システム開発の手法を生み出すのも重要だけど、人間がシステムを簡単に管理・把握できる方法論とかについても研究を進めた方がいいと思う。