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そして今日も考える。

社内業務最適化を阻む要因

私の会社には無駄な仕事が多い。というより、ほとんどの中規模以上の会社であれば、無駄と思える仕事がゴロゴロしているはずだ。正確に言えば、かける労力、コストに対しての入りが少ない仕事である。

 

撤廃する方向で進めても、「この仕事をやらないとこういうリスクがある」とか「こういう場合に困る」とか言い出すコンサバ軍団が必ずいるからだ。本当に価値が全くない仕事であれば、議論に上がる前に誰もやらなくなっている。

 

というわけで、私はこの手の仕事、特に定常的な業務に関しては割と積極的にツール化を進める。あるエクセルのシートの内容を別のシートに転記する、ある条件にマッチするデータだけを抽出する、とか、お決まりのメールテンプレートで依頼するとか。なるべく、長期的に使うことになりそうなものを優先的に作っている。

 

ただ、私は自作のツールを社内の標準にはしないことにしている。

 

普通に考えれば、自分以外の人もツールを使った方が組織全体としての効果は増える。だから、私も若手の多くがやらなければならない面倒な仕事を最適化したことがある。

 

ただし、ツールありきの仕事を標準化してしまうことにはリスクがある。それは大きく2点、保守・運用が必要になること、ツールに習熟する必要があることである。

 

1点目の理由「保守・運用」の担当を逃れるため、私は自作ツールは展開しない。ツールと言うとチープな印象を受けるが、単純なシステムである。世の中で今なお大多数の人に使われているシステムには必ず保守・運用を担当する人がいる。会社としてシステムを作っているのであれば、保守部門、運用部門など専属の要員が必ずいるのだ。

 

システムを使う人はただシステムを使うだけなので、自分でシステムを直すことはできない。そんな、「壊れた時に自分ではどうしようもないもの」を自分の生活基盤に組み込むことはできないのが人間である。

 

別にシステムに限った話ではない。例えば車。直してくれる人がいないのであれば、車を買う人は激減するだろう。ただ、モノで言えば寿命と共に故障していく場合がほとんどなので、最悪新品に買い換えれば済む話であるが、システムは言ってみれば、新品の時点で既に故障していることがほとんどであるので、保守・運用は必須と言える。

 

で、個人でツールを作ると、必ず保守・運用も自分でやる羽目になる。「だってそのツールのことわかっているのは作ったあなただけでしょ?」という理屈である。当然社内のこととは言え、ボランティアでやっているだけなので、こんな理不尽なことはない。だから他の人に使ってもらうことになっても、私は非公式に渡すことにしている。

 

さらに長期的に見ても、自分(開発者兼保守者)がいなくなってしまった時に、残された担当者だけでそのツールを運用していくことができなくなってしまう。結果的に、使われなくなり、また手作業に戻る、ということがままならないのだ。

 

2点目がツールの習熟。これはシステムを導入する時も同じ話で、業務のやり方が変わるとやっぱり戸惑ってしまう人が多い。で、だいたいの場合、「前の方が使いやすかった」とか、「どうすればいいかわからない」、などと言い出す人が後を絶たない。

 

何かを変えたときに聞こえてくるコンサバ軍団の決まり文句である。もちろん、ツール自体をいかに使いやすく、直感的にできるかという点について、開発者は考えなければならないのは事実だ。

 

しかし、恩恵を授かるつもりがあるなら、自ら習熟する姿勢を持つべきではなかろうか。車の運転に技能が必要だから車に乗らない、などと言っている人は技術の恩恵を決して受けることはできない。自転車だって同じだ。どんな道具もある程度使い方を覚える必要はある。

 

ただ、会社にいる人というのは、総じて今の自分のままでできる仕事を好む傾向にある。先ほどの保守についても全く同じである。別に開発者が私だからと言って、私が保守をしなければならない、なんて買い被り過ぎである。

 

私に言わせれば、誰でも少し調べれば、マクロの仕組みを理解して、自分の思い通りに直すことは可能だ。そのぐらいのレベルのものしか作っていない、というより一人で仕事の空き時間に作れるものなんてその程度が限界だ。

 

しかし、これまたそういう活動には興味がない人が多い。顧客に直結しない仕事、裏方の仕事、地味な仕事、そして評価されない仕事をやる人は少ない。これは組織としての問題ではあるのだけれど。

 

これが一般の企業なら別に上記に述べた問題からツール化を避けるのもいいのかもしれない(生産性が停滞するのでお勧めはしないが)。ただ、私たちはシステムを作っている会社である。だから、私は言いたい。お前たちは技術者ではないのか?と。

 

他人が作ったツールを使いにくいと言う前に、どうすれば使いやすくなるのか考えろ。ツールにバグがあった場合の心配をするのではなく、ツールのバグを直すためにはどういうスキルが必要なのかを考えろ。こんな姿勢の人達が良いシステムの提案ができるはずもない、と私は思うが。

 

でも、私たちはもう技術者の集団ではないのだ。だから同僚の技術に対する姿勢を問題視したところで仕方がないと諦めている。私はそもそも自分がやりたくない仕事をやらないためにツール化しただけなので、そのせいで自分の仕事が増えたら本末転倒であるし。