∑考=人

そして今日も考える。

無駄を排除するとは

最近、会社がいよいよ転換期を迎えているなという感じが上層部からひしひしと伝わってくるのが現場レベルでも肌で感じる。上層部のお達しは、カッコ良く言うならば「デジタルトランスフォーメーション(以下DX)に対応せよ」とのことらしい。そもそも現場レベルでは、「デジタル」と言う言葉をどういう意味で使ってるのかさえ曖昧なのだが。

 

まぁ簡単に言えば、「自分たちで事業を創出してください」というメッセージ。そう私は解釈している。強いて言えば、「新しいテクノロジーを活用して」という条件が加わるし、「社員一人一人ができるように」というのもあるだろう。

 

数年前からこういった風潮はあるにはあったけども年々本格化(少なくとも表面的には)している印象はある。よくある事業部のキックオフでも、SIビジネスからの脱却を目指そう的なスローガンで持ちきりだ。

 

ただし、そういった事業方針の転換が実態として上手く進んでいない。私がやっているプロジェクト もゴリゴリのSIである。蓋を開けてみると、周辺の組織も同じようなものであり、会社レベルでは一部そういった取り込みをやっている組織もある、ぐらいなものである。

※ちなみにここでの「SI」という言葉は、事業を創出するのはあくまでお客様で我々はあくまでも手段としてのITシステムを作りますよ、といった仕事、あるいはそういった働き方のことを指していると思っていただきたい。

 

そういった停滞を踏まえ、「なぜ、DXうまく進まないか」という議論が上層部で交わされているのである。

 

そこで得られた結論は何か想像できるだろうか。「会社の文化に合わない」「適切なスキルを持った人材が少ない」、色んな理由があるが、結局のところ、一番の原因として定義されたのは実にシンプル。

 

時間、リソースが足りない。

 

「あ、それいっちゃうんだ・・・。笑」という感じである。そして、面白いのが時間がないことへの対策として、「短い時間で仕事を終わらせる工夫をしよう」という結論になったらしい。はて。それは問題のただの裏返しでは・・・?

 

もちろん、上層部がただ何もしたくないわけではない(、と私は信じたい)。過去の経験からなのか、推測なのか、「人や時間を増やしたところで結局やらないでしょ?」と彼らは考えているのだ。

 

私自身もある程度制約があった方が仕事は速く片付くようなイメージはある。例えば、今一人に与えている仕事量を半分にしたとしても半分時間が増えるかという増えない。また、5人で構成されているチームを10人にしてもきっと同じだ。

 

なぜ、人を増やしても時間に余裕ができないのか。答えは「無意識に品質基準をあげてしまうから」である。パーキーソンの法則にもあるように、「仕事の量は完成のために与えられた時間を全て満たすまで膨張する」のだ。

 

例えば、学生の頃。試験が始まる5分前ぐらいまでずっと教科書見てる人が沢山いたし、試験の前日まで何時間も予備校で勉強する人が沢山いた。私はあの光景がずっと信じられないし、バカバカしいと思っているのだけど、そういう考え方ってなんか美徳とされる傾向にある。日本特有な気がするけれど。

 

要はそういう思考回路の人間に時間を与えたら、決して届くことのない成功率100%の状態を目指して時間を使いますよ、という話なのだ。特にプロジェクト型の仕事をしている人は必ずそうなる。システムエンジニアとかコンサルタントの残業時間が長いのはそういった失敗のリスクや仕事そのものの不安定さと常に直面しているからだと予想する。

 

例えば、システム開発の場合、「どれだけの試験を実施するのか」というのももはやシステム開発の中では哲学と呼べるほどに奥が深く、正解がない。人によって全然感覚が違うし、どういったシステムなのか(人命に関わるのか、お金が関わるのか)によっても考え方は異なる。

 

他にもリリースや移行と呼ばれるシステムを新たに導入したり、新システムに切り替える作業などもやはりミスは許されないのが普通である。であれば、入念にリハーサルを行いたいものだ。練習すればするほど、成功率は上がるのだから。

 

結局のところ、悔いを残したくないのだろうな、と思う。「やりきった感」と表現しても良いかもしれない。

 

例えば、商用へシステムをリリースして故障が出たとしても、ギリギリまで働いた上での結果なら「しょうがないか」と納得できるものだが、毎日定時帰りの働き方だったとしたら「もっとやれることがあったんじゃないか」と考えるはずだ。だから私たちは持っている時間の全てを成功率をわずか数%でもあげるために膨大なコストを払うのだろう。

 

時間を減らすのであれば、「いかに妥協するか」を考える必要がある。これは現場ももちろんだが、特に上層部が真摯に向き合わなければならない課題である。

 

 

そもそもミッションクリティカルなシステム開発は請けない、試験は項目数の上限値を先に決めて業務的重要度に応じて網羅性担保の段階を分ける、資料のRvは1回に決めるなど、立場に応じて色々なやり方がある。

 

無駄を排除するとは、基本的には「品質を捨てること」なのだ。それでもどうしても品質を捨てられないのであれば、「いかに時間をかけずに品質を上げるか」を考える続けるしかない。今まで複数の組織を見てきたが、どの組織も品質を上げること方策を考えるだけで「いかに時間をかけずに」という視点が抜けていた。

 

そのため、総じて「時間の限りやれることは全てやる」という対策が打たれ、結果的に時間をかけた割には品質が上がっていない、という状況が散見された。(でも絶対的な品質は少なからず上がるため、その取り組みは効果的だったなどと考察されることが多いのも事実。)

 

いかに時間をかけずに品質を上げるか。個人としても会社としても問い続けてほしい。