現代において、あらゆる仕事に直結するスキルが何かわかる人はいるだろうか。リーダーシップ?英語力?それともクリエイティブシンキング?ロジカルシンキング?あるいは段取り力であったり、コミュニケーション能力かもしれない。回答は色々あるだろう。
個人的な見解までに述べておくと、上記の能力は非常に重要であるし、仕事を進める上での基盤となるスキルではあると思うが、かと言って全ての仕事に適応可能かというとやや疑問が残る。
例えば、リーダーシップはリーダ以外には必要はないし、英語力は国内に閉じた仕事であれば必要はない。特にアイデアを求められず言われたことを言われた通りやればいい仕事に従事する人にクリエイティブな発想は求められない。もちろん、いずれもあった方がより良い、それがスタート地点ではない。
私が最近になって常々痛感しているのは国語力の重要性である。おそらく上記で挙げたようなスキルを身に付けるために国語力は必須である。
今となっては別に難しい漢字を読めたり、書けたりする必要はない。しかしながら、誰かの書いた文章を理解したり(読み)、自分の書いた文章を誰かに伝えたり(書き)するのは古今東西で求められている。
少し考えればわかるが、1を言われて10理解する人と、10言われて1を理解する人では、生産性に100倍ぐらいの差が出ることになる。逆もまた然りで、1聞かれて10の回答ができる人と10聞かれても1の回答しかできない人も生産性に100倍の差が出る。
例えば、新人の代表的な雑用業務に印刷がある。極端な例を出せば、上司からファイル名だけを教えられて、「これ印刷しといて」とだけ言われることもあるだろう。これははっきり言って1の指示である。そして、こういった指示に対して「わかりました」と答え、「このファイルを印刷すれば良い」とだけ解釈するのは1の理解である。こんな回答をしているようではお話にならない。
10理解できる人は、残りの9を補うためにいくつも質問を用意することができる。というかほとんどの場合、残りを補わなければ、そもそも仕事に着手することができないのである。
印刷の例で言えば、「部数は何部必要か」「このファイルはどのサーバのどのフォルダにあるか」「用紙のサイズは」「両面印刷で良いか」「ホッチキスの位置は」「2 in 1にしなくてよいか」「カラー印刷で良いか」など他にも印刷するために必要な情報を揃えなければならない。
上司の指示を聞いた時点でこれらの質問を思いつける人が1から10を理解できる人である。さらに言えば、過去の経験から、こういう場合はA4印刷、ホッチキスの位置は左上、などを類推し、自分自身で上司の不完全な指示を補うことができるようになれば、完璧である。本物の国語力には経験も必要となると言えよう。
最近私は毎週客先で打ち合わせをしているわけであるが、お客さんに提案する内容や、調整事項は、協力会社のメンバが主体となって考えているため、自分自身の意見ではないことが多い。
基本的には協力会社の人が、「こうしたらどうでしょうか?」とか「こうしたいです」と考えている内容を自分たちの意見として、お客さんにどうでしょう、こうしたいんですが、と伝えるわけである。
例えば、ここで我々が1聞いたことを1しか理解していないとすれば、どうなるかと言えば、当然、お客さんの質問に対して1しか答えることができない、という話になる。結果的に話には収集がつかなくなるし、結論も出ない。何より、我々が存在している意味がないことになるのである。
だから、我々に求められているのは、協力会社から聞いた1から10を理解し、お客さんの1の質問に対して10で回答することなのである。実はこういうことができる人間は驚くほど少ない(というか私も到底満足にはできていない)のである。そして、これこそが国語力だと思う。
ご察しの通り、ここで私が述べている国語力とは、単純な読み書きの話ではない。文章の背景に潜む経緯や目的を読み取る力(読解力)と、それを正確に伝える力(表現力)のことを合わせて国語力と読んでいる。
ちなみに国語力といえば、何となく読書をすることで身につけられるような気がするが、なんとなく本を読んだところで、文面を理解する力がアップするだけで、仕事の現場で求められる国語力は身に付けることはできない。
ではどうすれば良いか。
月並みではあるが、自分が行動するつもりで考えることと相手の立場に立って考えることである。
例えば、印刷の例で言えば、自分が印刷するつもりになって考える、あるいは自分が印刷機になったつもりで考えるのである。印刷機が自分に対してどんな情報を求めてくるかがわかっていれば印刷はできる。
お客さんの例でも、自分がお客さんに説明するつもりで考える、あるいは自分がお客さんになったつもりでどんな質問をするかを考えてみるのである。その質問に対して答えられないのであれば、まだ理解が不十分ということになる。
とは言え、印刷したことのない人、お客さんから質問を受けたことがない人は、何が必要な情報なのかはわからない。これが前述の通り、経験に起因する部分である。もちろん、経験があるほど、より具体的に踏み込んだ考慮が可能だが、何も知らなくたって理解を深めることは可能である。
そのために最低限必要なツールがビジネス研修でもお馴染みの5W1Hというものだ。上司に「これ印刷して」と言われた時に、印刷をしたことが一度もないのであれば、「なぜですか(Why)」「誰に見せるのですか(Who)」「どこで使うのですか(Where)」「いつ使うのですか(When)」「どうやって印刷するのですか(How)」と「何が書かれているのですか(What)」を基本に考えればいい。「何部印刷すればよいですか(How many)」もかなり基本的な質問である。
私の感覚的に、こういった初歩的な質問をしすぎると煙たがれることが多いように思うが、こういった自問自答に対して自分でまずは考えてみる、というプロセスを踏んでから質問するようにすると良いと思う。
とは言え、こういうことに時間をかけるのは結構辛い。