∑考=人

そして今日も考える。

人工知能とは

人工知能という言葉が最近また脚光を浴びだしているが、「ん?それって人工知能なのか?」と思う瞬間が多々ある。実は、人工知能という言葉の範囲は結構広いのだ。つまり、大したことない人工知能もめちゃくちゃ凄い人工知能も一口に人工知能という言葉で語られている。

 

例えば、OKGoogleやSiriなど、スマホに搭載されているアプリは人工知能が入っていると思う人もいるだろう。「〇〇への行き方を教えて」と聞けば、電車の乗り換え案内が表示されることは確かに凄いことではある。しかし、あれは単に、音声認識技術や字句解析技術が向上しただけであると私は思う。本質的には、特定の条件に対して特定の処理を実行する、という従来のプログラムの領域を超えていないように感じてしまう。

 

実際、これらの人工知能としては最も弱いAIだそうだ。物事を認識する力のみが人に近くなっているだけ、といったイメージである。これをAIと言われても正直あんまり腑に落ちない。

 

当然、ではお前の考える人工知能とは何なんだ?、という話になるだろう。その前に、従来のシステムやロボットにはできなくて人間にしかできないことが何なのか、について私の意見を述べたいと思う。

 

端的に言えば、演繹化と帰納化ができることである。例えば、私のやっているSEの仕事というのがまさにそれだ。プログラミングは既に自動化されつつあるが、SEの仕事がまだ自動化に至っていない最大の要因はここにある。

 

SEの仕事の本質は帰納化、すなわちお客さんの「こうしたい」を実現するための方法をプログラミング可能なレベルまで具体的にすることである。プログラマーは既に具体的になった手順書をプログラミング言語に翻訳していくだけの仕事である。(もちろん、実際にはSEの設計が悪く、プログラマーの試行錯誤が必要な場合が多いことも補足しておく。)

 

ちなみにSEに限らず、優秀な人間ほど、具体的な何かから抽象的な教訓を得たり、抽象的な教訓を具体的な別の事象に落とし込んだりするのが上手い、と個人的には思っている。 

 

例えば、プロのスポーツ選手に頭がいい人が多かったりするのも、学業で成果を出すための方法論と、スポーツで成果を出すための方法論には何らかの共通点があり、その共通点を意識できているからこそどちらも良い結果につなげることができる。実際、分野は違っても一流の人たちの考え方に共通点があることはよく知られた話である。

 

と、非常に前置きが長くなってしまったが、今まさに本当に注目されている人工知能というのが、この優秀な人間と同じようなことができるものを指す。すなわち、具体的な事象から抽象的な共通点を導き出し、その他の事例に適応できるのだ。

 

一つ、全世界に衝撃を与えたニュースとして、「猫を認識するAI」が少し前に開発されたのを覚えているだろうか。素人目にはSiriなど、人間らしく振る舞える方がすごいように見えるかもしれない。しかし、コンピュータが現実世界の概念を理解出来るというのは凄まじいことなのである。

 

すごい点は、ズバリ特徴量を抽出できる点である。

 

次の写真を見て欲しい。

f:id:n1dalap:20170302203218j:plain

 

この写真に写っているものが何かと問われれば、おそら誰でも”ネコ”と判別できる。ただ、この写真、このネコを見るのはほとんどの人は初めてのはずである。では、なぜ初めて見るものなのに、それが”ネコ”だとわかるかというと、それは私たちが”ネコ”という概念を理解しているからだ。

 

ネコの概念とは、簡単に言うと、ネコの特徴のことである。髭が3本ずつあって〜、小さめの動物で〜、色は白とかグレーとかベージュとか茶色とかマーブルとかで〜、耳が上についている〜。そんな生き物が”ネコ”なんだということを経験を通じて学んできたのだ。そして、私はネコの概念を学んだわけではなく、個体として存在している様々なネコを見る中で”ネコ”が何かを学んだのである。

 

そう、人間なら誰でも当たり前にやっていることを今までのコンピュータはできなかった。しかし、これからの人工知能はできるようになる。ちなみに膨大なデータを与えるだけで特徴量(概念)を自分で作り出すことができる技術がディープラーニングと呼ばれている。

 

これは画像に限った話ではない。例えば、同じGoogleが開発したAlpha Goという囲碁プログラムは強い棋士達の膨大な戦局データから強い囲碁の打ち方の特徴量を抽出しているからなのである。ネコの概念を理解するぐらいなら誰でもできるかもしれないが、良い戦術の概念や特徴を掴むのは人間なら誰でも、というわけにはいかない。

 

だから、人工知能は少し優秀ぐらいの人間であればあっさり超えてしまう可能性があり恐れられてる。ただ実際のところ、今はマシンの性能が追いついておらず、アルゴリズムであるソフトの技術は実用化されつつあるが、ハードウェアはまだまだ実用化できるレベルにはない。(例えば、ネコを理解するAIはCPU以上の性能を持つGPUを1000台ぐらい繋げて計算しなければ処理しきれないほどの計算量なのだ。)

 

今はまだ人間の方が低コストで利点があるから一安心だが、今後のためにも人工知能に何ができて何ができないのかぐらいは知っておいても損はないと思う。