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RPAの登場が意味するもの

最近のITのトレンドに「RPA」というものがある。おそらく、「AI」とか「クラウド」とかに比べると、かなり馴染みのない言葉だろう。まだ日本では言葉自体もそれほど普及していない新しい概念である。正式名称はロボティックプロセスオートメーション、直訳すれば「ロボットによるプロセスの自動化」である。

 

そう、簡単に言うと、RPAとは業務自動化によって作業を効率化するための技術概念である。主にターゲットとなっているのは、ホワイトカラーの、特にバックエンドで活躍する人たちの業務を自動化することだ。おそらくRPAの解説を読むとそんな概要が説明されているだろう。

 

新しい価値やサービスが次々と創出される時代の流れとは逆行しているように見えるかもしれない。ここに来て、業務の効率化なのかと。あるいは、業務の自動化なんてシステムでもできるじゃん、と思う人もいるかもしれない。SIに勤める一人として私も当初はそんな印象がなかったわけではない。

 

結論から言うと、RPAはSIerの価値を揺るがしかねない存在になる。RPAは単なる自動化の新しい技術、ではない。従来のシステム開発のやり方を根底から覆す可能性を秘めている新しいビジネス領域である。

 

▪️RPAの特徴

最初に述べておくべきRPAの大きな特徴は、従来のシステム開発では対応が難しかった領域の作業を効率化できる点にある。

 

近年、システム開発の現場で大規模な開発プロジェクト案件は減ってきている。実はもう、ほとんどの会社における主要な業務はシステムの導入によって自動化・効率化が進んでしまったからだ。ほとんどが機能追加とかプチ改修みたいな開発である。つまり、主要な業務について大きな効率化の余地は残されていない。

 

しかし、それはそれなりに大きな会社に限った話である。未だに小さな会社ではExcelやWordなどを駆使しながら仕事をしている現場もあるはずだ。あるいは大きな会社であったとしても、裏方の仕事、事務的な入力作業とかはなかなか専用システムが導入されていないのではないだろうか。

 

この理由は何か。システム開発はめちゃくちゃ高いからである。しかも発注側にとって、システム開発とは先行投資である。まず莫大な金額を払って、数年かけて運用して効率化された分のコスト削減によってその投資金を回収し、それ以降は利益に貢献できる、というモデルだ。

 

先日のエントリで述べたように、いかに単純そうなシステムであっても専用のものを作ってもらうとなるとどうしても多額の資金がかかる。なので、資本力のある会社か、業務が効率化された場合に削減できるコストの見込める業務しかシステム化できない、という本質的な問題を秘めている。実際、大企業としか取引しないSIerは多い。

 

n1dalap.hatenablog.com

 

しかし、RPAはシステム開発に比べると安い。正確なことは言えないが、数千万とか数億はかからないはずである。それはシステム開発の大部分を占めている人件費がほぼカットされているからだ。この理由は、RPAの二つ目の特徴でもあるプログラミングレスと関係がある。

 

例えば、一般的にシステムを作る場合は、ほとんどの場合、プログラミングという作業が必要となる。パッケージ製品をカスタマイズする場合も基本的には同じで、パッケージ製品を構成するプログラムを理解した上で、プログラムを追加・修正しなければならない。

 

しかし、RPAはプログラミングという作業を必要としない。具体的には作業者が行う業務手順を記録させることで、システムが出来上がるのである。エクセルのマクロの記録機能を使ったことがある人ならイメージが沸くと思うが、作業者が行った手順が自動でプログラム化され、それが再利用可能なシステムとなる。ただ、マクロと違って、PC上のあらゆるアプリケーションとのデータ連携を可能にするのがRPAである。

 

現在のシステム開発は要件定義、設計、プログラミング、テストと工程を重ねて業務システムを作り上げていくが、RPAは作業を記録させるだけでシステムが出来上がる。恐ろしく開発スピードが速いのだ。もちろん、データの違いなどを考慮した設定は必要になると思われるが、GUIを用いて直感的に設定もできる。また、AIを活用した技術ではあるため、そのレベルによってはユーザの設定さえ必要としない場合もあるだろう。

 

どちらかと言えば、ユーザが自由にカスタマイズしやすいソフトウェアパッケージ製品をイメージした方がわかりやすいかもしれない。ソフトウェアパッケージは、日本の現場にありがちな、標準化されていない業務への適用が難しく、またIT専門外の人間が改造することも難しかった。しかし、RPAはIT系人材ではなくとも自由に自分たちの業務に合わせて改造できるパッケージ製品。そんな感じで考えればわかりやすいと思う。

 

よって、小規模企業とか、バックオフィスの業務の効率化もターゲットに含めることがを可能にした。今まで収益化が難しかった領域を責めている感じが、なんとなーく、Amazonロングテール戦略を彷彿とさせる。市場への影響も与えるんじゃないだろうか。(なお、かのマッキンゼーは)

 

▪️SIerはRPAをどう捉えるべきか

察しの良い人なら次の事実に簡単に気づくはずだ。

「RPAがあればSIerなんて要らないんじゃね?」

SIerが解釈すべきRPAの本質は、今まで業務効率化の難しかった領域の自動化が可能になったことではない。ユーザ自身のシステム開発が可能になったということである。だったらSIの存在意義はなくなる。

 

実際のところ、システムの内製化の流れは進んでいるし、従来型のSIのビジネスモデルは崩壊しつつある。そんな中、RPAの登場はさらに事を深刻化させるキッカケとなるだろう。

 

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RPA革命の衝撃

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 参考