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そして今日も考える。

「ため」のサービスの衰退

「ため」のサービスは時代と共に衰退する。これは歴史が証明している。

 

電話交換手という職業をご存じだろうか。昔は誰かに電話をかける時、実は今のように電話番号を入力して発信、みたいなことができなかった。そういう仕組みが存在しなかったからだ。

 

当時の電話交換手は、かかってきた電話を一限的に受け、発信したい相手に線を繋ぐという仕事を担っていた。今では考えられないが、ダイヤル発信という技術が生まれるまではそれが普通だったということである。

 

電話交換手の価値とは何だったのだろうか。通話ができること?遠隔地の相手との会話ができること?厳密には違う。相手と通話をする「ため」に必要な作業をするという価値だ。つまりは「価値」を実現するための手段に過ぎなかった。別のもっといい手段が見つかればもはや勝ち目はない。

 

比較的新しい話では、ショッピングモールは巨大なECサイトに置き換えられつつある。まだ百貨店等は残ってはいるものの衰退の一途をたどっていくだろう。なぜか。

 

洋服という価値を届ける「ため」に場所を提供する、あるいは沢山の洋服を見る楽しみを与える「ため」に場所を提供するのが価値だからだ。別のもっといい手段があれば、やはり勝ち目はない。せいぜい「リアル」の価値をどう訴求していくか、という別の対策を考えるぐらいの余地しかない。

 

もっとIT業界よりの話をすると、クラウドの普及が本格化している。一方で、オンプレミス、すなわち自社でサーバを保有するスタイルは衰退しているはずだ。すなわちサーバなどのハードウェアメーカーやサーバ構築などをこれまで担っていたインフラエンジニアと呼ばれる人たちの雇用は確実に局所化し、衰退していく。なぜか。

 

インフラはそもそも「アプリ」というサービスに直結するプログラムを動かす「ため」の場所でしかないからだ。自分たちでサーバを調達して、セットアップするよりもクラウドを使った方が楽で簡単であれば、当然そうする。もちろんセキュリティなどの課題はまだ残ってはいるが、クラウド化の方向性が変わることはないと断言できる。

 

最後に、現金。日本には拝金主義が蔓延っているし、一定数の人たちはまだまだ現金自体に価値を感じているかもしれない。ただ、現金も手段の典型例だ。仮想通貨というより良い決済手段が登場したことで、必ず、現金の発行数は減少する方向に流れていく。今は価格も不安定で、決済インフラが整っていないが、決済インフラを簡単に作る仕組みが出来てくれば、この辺りの課題は将来的にはクリアされる。

 

個人個人は感情で動く社会ではあるけれど、世の中全体としてみれば合理化されていくみたい。そして、それを支えるのは技術革新だ。このことは、特に仕事をする上では頭に入れておきたい。

 

そして、手段としての価値が淘汰されるスピードは近年格段に上がっているのは間違いない。例えば、数年前まで我々SIerというのはサービス提供の手段としての価値を提供するBtoBの業態であった。

 

だが、時代の潮流を受け、今や「サービス創出」を事業戦略に掲げている。一言で言えば、BtoCにシフトする、ということなのだ。価値を提供する「ための」ビジネスは今後確実に衰退するのだから当然である。

 

これは全てのBtoB企業に突きつけられている課題である。もちろん、差別化・専門化によって生き残る術はあるが、生き残れる企業数は確実に減っていく。かつ、新しい技術によって代替可能となったら終わりである。

 

また、少し違った味方をすれば、「会社」という仕組み自体が、個人の能力から生まれる価値を誰かに届けるための手段でしかないので、やっぱり淘汰されていく。最近、メルカリなど、CtoC市場が発展し続けているのは、つまりそういうことなのだ。

 

もしかすると、ECサイトの例など、プラットフォーマーと呼ばれるBtoB企業の威力と矛盾するように感じるかもしれないが、市場を制した一部の企業にしかできないビジネスになるという意味で、業界としては衰退せざるを得ない。

 

さらに付け加えるならば、今はまだ凄まじい影響力を持つプラットフォーマーも、実は手段でしかないことを考えると、将来的に全く別のものに今後置き換えられる可能性は高い。

 

究極的には、新しい技術を創出する人とサービスを創出する役割に二分化されていく。これを念頭に置いて、仕事をしよう。