∑考=人

そして今日も考える。

心にコンパスを

「別プロジェクトに支援してほしい。」

 

先週の始め、事業部長からそう任命を受けた。社内標準の新規ソリューション開発に支援という形で参画して早約3ヶ月、ちょうど要件定義が終わりこれから設計、という段階ではあったが会社とは容赦がない。その発令の2日後から既に別プロジェクトに参画している。そう。わかってはいたが、サラリーマンとはそういうものらしい。課長レベルの意思決定であれば抵抗を示すこともできるが、それ以上ともなるとどうにもならない。

 

配属先のプロジェクトは超巨大プロジェクトである。既に総合試験(システム開発の最後のフェーズ)が始まっており、10月にカットオーバーを迎える。ウォータフォールのシステム開発の場合、終わりにかけて要員は減っていくのが通常であるが、それでもなおプロジェクトメンバ300人程度がいる、というこれまでの開発とは桁違いなプロジェクトである。

 

社内的には人気のプロジェクトの一つではあるが、正直モチベーションはあまりない。既に総合試験、すなわち上流工程が終わっていること。携わる業務の質、具体的には維持保守を見据えた泥臭く、作るものに影響しない仕事であること。

 

過去に一度一緒に働いた経験があり、決して一緒に働きたくはなかった先輩のチームに配属されたこと。元々同じ組織で働いていた人がやたら多いこと。(知っている人がいる、という意味ではやりやすい側面もあるが、新人の頃の私を知っている人との上下関係の構造が変わらなくやりづらい側面があるのだ。)そもそも大規模なチームで働くことに対する抵抗があるということ。長時間労働が定常化していること。あげればキリがない。

 

元々プロジェクトにいた人たちは、自分たちの仕事の魅力をたくさん伝えてくれるけれど、タイミングや前提条件が違う私にとっても同じとは限らない。もちろん、本格的なWebシステムで、しかも新規開発、という面白そうな要素もあるけれど、それを超える嫌な要素が多くて、結論としてそもそも私は2年以上前からそのプロジェクトには行きたくないという意志を持っていたのも事実であった。

 

もちろん、結果的に面白いという可能性もあるだろう。最近までやっていた仕事も気づけば面白い仕事に変わろうとしていたのだから。ただ、携わった仕事が結果面白かった面白くなかった、というのは本質的な問題ではなく、自分の人生を全くコントロールできない、ということに少し危機意識を抱いてしまった。

 

最近は、自分のキャリアに対する漠然とした不安を感じることが多い。というのも、私は常に職種やチームの短期的な変更が続いているからだ。私自身の選択が受け入れられたこともあれば、意図せざる結果としての変更も多く、非常に不安的になってきているのだ。

 

オールラウンダー・ユーティリティプレイヤーと言えば聞こえはいいけれど、「で、君は何が得意なの?」に対する回答がない。常にスキルゼロの中から地頭と勉強で目の前の仕事に対応している。決して楽ではない。先輩や上司からは評価されるけれど、果たしてこれは市場で評価されるのだろうか、と疑問に思う。

 

大きい会社に入って理想のキャリアを積み重ねていく、というのは到底無理な話なのかもしれない。会社の仕事に個人の意志を完全に反映させるなど、ほぼ運のみだろう。ただ、少しでも運に頼らずキャリアを切り開いていくには、自分の意志を明確に決めておかなければならない。

 

正直に言うと、私はこの会社の中でのキャリアというものをあまり深く考えたことがない。なぜならば、今の会社の仕事は何をやってもそれなりには面白いし、何をやってもそれほど面白くない、と思っているからだ。営業は絶対に嫌だけど、たぶん提案資料とか作るの好き(だとわかった)ので、やってみればそれなりには楽しめるんじゃないかと思う。

 

そして、サラリーマンをやっている人の99%はそうである。「こんなことやってみたいな」ぐらいの思いはあるけれど、結局やってみたら思っているほど楽しくなかったり、楽しい仕事だけができるわけでもなかったりと、「なんか違うな」、と理由をつけて、「これがやりたいことではない」とか言う。だからといって絶対に嫌なのかと問われればそんなことはなくて、その仕事もちゃんとそれなりに楽しんでいる人がほとんど。

 

だから、ほとんどの人は自分の意志を固めることを諦めてしまうのだ。なぜなら、自分の意志を持っていても、その通りに物事を運ぶことはできないし、何をやっても面白くてつまらない。むしろ、何のために意志が必要なのか?と思っている人さえいるかもしれない。

 

答えは簡単だ。それはいざとなった時に、辞表を出すためだ。多くの人は、意志を持っていないのではなく、「会社の意志に全て従います」という意志を持っているのだ。 会社の99%の人はそういう意志を持っている。会社の中で、「こんなことをやりたい」と語る人間はごまんといるけれど、本当のみんなの最上位の意志は「私は会社の意志に全て従います」なのだ。

 

私もそういう状態であることに気づいた。交渉のカードとしての意思表示はできても、意志を持っているわけではない。だから辞表が出せないのである。そして、会社の意志に従わざるを得ないのだ。それが理不尽なものであっても、みんな同じ、サラリーマンはそういうものだという理由で諦める。

 

新人社員研修の頃の講師を担当していた先輩がこんなことを言っていた。「会社と自分は主従の関係。でも自分が主で、会社が従である」と。「会社の意志に全て従います」は完全んい自分が従の状態である。自分が主であるとは、自分の意志に会社を従わせる、ということであり、従わない場合は切ると言う選択をする、ということだ。

 

心にコンパスを。