∑考=人

そして今日も考える。

味覚シミュレータ

去年、グーグルが一時的に、Google Nose BETAというサービスを公開していた時があります。今もそのページが残っていたので貼り付けておきました。プロモーションの動画を見れば、それがどれほど革新的なサービスであるかはわかるでしょう。仮想的に匂いを体感したり、匂いから検索をすることができる、というものです。

 

知っている人も多いと思いますが、これはグーグルが去年のエイプリルフールに公開したジョークサイトです。当時は、「香りを嗅ぐ」ボタンが用意されており、端末に鼻を近づけた人もいるかもしれません。「何も起こらない場合はこちら」みたなリンクが丁寧に用意されていて、それをクリックすると、通信状況が悪い、とか対応機種ではない、といったもっともらしい理由が並んだ最後に、「今日はエイプリルフールです。」とネタばらし。なかなかウィットに富んでいました。ジョークであることを知ってからこのプロモーション動画を見るとかなり笑えます。

 

一方、シンガポールの大学では、Google Noseのような仮想的な技術として、味覚シミュレータが開発されたようです。なんでも、電極を舌に当て、微電流を流すことにより、仮想的に味覚を体感できるというのです。Googleのジョークのせいで、私にはどうも眉唾物に見えてしまいますが、どうやらこれは本物のようで、糖尿病などを防ぐことができる可能性も示唆されています。

 

今まで「味わう」行為は必ず「食べる(飲む)」行為とセットでした。味わうためには食べなければならないし、食べるためには味わなければならなかったのです。しかし味覚シミュレータは、この表裏一体の行為を分離することに成功したと言えます。

 

しかし、味覚だけを取り出して楽しむことができるようになるということは、反対に、食べ物自体の価値は低下してしまうのかもしれません。現在、私たちの食事は栄養を取るための食事、単に美味しいものを食べる(味わう)ための食事におおまかに分類されます。例えば、ケーキとかお菓子といった類の食べ物は本来、味覚を刺激するための食事です。

 

味覚が仮想的に味わえるようになれば、娯楽としての食べ物の価値は低下せざるを得ないでしょう。糖分などの栄養は与えずに、甘い味覚だけを与えることによって、糖尿病患者を治療していく、という味覚シミュレータの目論見も、逆に言えば、「美味しいけど体に良くない物」を排除していく方向へと向かうことになります。

 

今は想像もつきませんが、Google Noseのプロモーションビデオの最後のように、皆で電極を舐めて味覚を楽しむという時代が来るんでしょうか。