∑考=人

そして今日も考える。

利用と得意分野

他人に利用されたと感じた時、人は少なからず不快な感情を抱きます。私も人に利用されるのははっきり言って大嫌いです。でも、なぜ人に利用されると腹が立つのか、考えたことはありますか?

 

全ての人に当てはまるとは限りませんが、私の場合、利用されて腹が立つのは、その人の間に、暗黙の上下関係が存在することがわかってしまうからです。例えば、自分の中では対等だと思っていた人物の都合の言いようにコントロールされていたことがわかった瞬間、対等な関係という幻想が崩れ去ってしまいます。尊厳が傷つけられるです。

 

体目当てや金目当てでの付き合いが忌み嫌われるのも、「利用されている」という認識が拭いきれないからでしょう。人としてではなく、道具のように利用されることで、一種の支配関係が成立してしまうからです。やはり尊厳が傷つけられます。

 

このように、他人を利用する、という考え方はあまり良いものとは考えられていません。そして、利用価値で付き合う人を選ぶのも、社会的に良しとされる行動ではないでしょう。でも、利用されることは本当に望ましくないことなのでしょうか。

 

逆に、全く利用されていない状態を想像してみてください。上司から「君は何もしなくていい」と言われた時、恋人から「あなたはこの部屋にいるだけでいい」と言われたとき、どう思いますか?自分の存在価値がないような気分になりませんか。

 

利用されることが「道具」として扱われることだとすれば、利用されないことは「置物」として扱われることです。実は利用価値は存在価値そのものなのです。利用されるのは、あなたという人間が存在している価値があることを証明するものでもあります。

 

とは言え、ここまでの主張ではただの綺麗事、詭弁です。利用されることに価値があるとしても、利用されるのはやっぱり嫌、そう思う人が多いでしょう。なので次は、どんな風に利用されるのが嫌なのか?というところまで掘り下げる必要があります。

 

前述のとおり、体目当てや金目当てでの付き合い、というと悪い印象を受けます。しかし、例えば、「笑い」目当てや「誠実さ」目当てでの付き合い、というとどうでしょう。あなたは面白いから一緒にいる、あなたは誠実だから一緒にいる。こういった理由で付き合う人を選ぶ人はたくさんいるんじゃないでしょうか。しかし、こういった理由でパートナーに選ばれたとしたら、嫌悪感を抱くどころか、むしろ誇らしく思うんじゃないでしょうか。

 

でも嫌な言い方をすれば、これも実は「利用されている」んですよ。相手はあなたの「面白さ」や「誠実さ」を、人生を幸せに生きるための道具として利用しているんです。でも、地位やお金や外見など、外面的な性質を利用される場合とは大きく異なり、誠実さ内面的な性質を利用されるのは全く悪いこととは考えられていません。そもそも「利用されている」という表現自体が不適切のように考えられてます。

 

私が気になっていたのはこの違いです。なんで「お金」に群がってくる人たちは煙たがられて、「性格」に群がってくる人は歓迎されるのか。その違いはコモディティとアイデンティティです。

 

「お金目当て」とは、お金さえあれば(自分ではない)他の誰かでも良かったということを意味します。「体目当て」の場合は、女なら誰でも(自分でなくても)良かったということです。つまり、「自分が誰かにとって交換可能な存在である(=コモディティ)」ということに気づいていしまうため、尊厳が傷つけられるのです。

 

そして、内面目当ては良い方向に働くのは、人間は自分の内面にアイデンティティを見出す傾向が強いからです。例えば、相手が「優しさ目当て」で、優しい人なら誰でも良かったとしましょう。しかし、優しさは自分にしか出せないオリジナルのものだ、という自負があるため、むしろ利用されていることに喜びを見いだせるのです。

 

結論として、自負があるかどうかによって利用された時に抱く感情は異なるのです。たとえ「体目当て」だったとしても、その人が自分の体を毎日念入りに手入れして、かつ自信を持ち、それこそが自分を象徴するものだと考えていれば、嫌悪感どころか誇らしく感じる可能性だって十分にあります。別に内面じゃないとダメなわけではありません。たまたま内面は、お金や地位のように単純な評価軸が存在せず、誰もが根拠もなしに自信を持っているため、利用されることに嫌悪感を抱きにくいだけです。

 

野球のスキルに自信がある人は、助っ人として別のチームから呼ばれたら誇らしくと感じるでしょう。これはその人にとっては野球のスキルこそが自分を自分たらしめるものだという自負があるからです。あなたが利用されても嫌悪感を抱かない分野があるとしたら、そこには自分の得意分野が隠されてる可能性が高いはずです。