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そして今日も考える。

今後SIerはどうなっていくのか

今日はSIer(エスアイアー)について書こうと思う。SIerという言葉はIT業界では当たり前に使われるので、私自身にとっては実に馴染みのある言葉なのだが、意外の周囲の認知度は低いようだ。就活サイトなどに記載されている業界の選択肢に「SIer」なる業界が存在していないことも1つの要因であろう。

 

ちなみに、Wikipediaにおける定義によると、『個別のサブシステムを集めて1つにまとめ上げ、それぞれの機能が正しく働くように完成させる「システムインテグレーション」を行なう企業のこと』と書かれている。正直、この説明では私もいまいちピンとこないし、本当に正しい言葉の定義は知らない。

 

これは具体例で考えてみるとわかりやすいのだと思う。例えば、「メーカー」と言われれば、大抵の人がどんな会社なのかわかることだと思う。ホンダ、パナソニック、三菱、日立、あるいは、グリコ、サントリーなんかも広義ではメーカーに該当する。メーカーとは「Maker」、要するに製品を作る企業のことを表す。

 

同様に、SIerとは正式に言うと、システムインテグレーターと呼ばれる。シンプルに言えば、システム構築をする企業のことだ。しばしば、SIerとSIとSEの違いがよくわからない、という意見を耳にするので、その点についても補足しておこう。

 

SIerが企業を指すのに対し、SIはシステム構築というサービス自体を指し、SEはシステム構築業務に携わる人を指す、ぐらいの認識でいいと思う。SIerとSEの関係は言ってみればメーカーとエンジニアの関係と同じである。これでも分かりにくければ、ハードを作るのがメーカーでソフトを作るのがSIerと考えても良いかもしれない。

 

実際にはメーカーとSIerが同位層に存在するわけではない。例えば、HITACHIや富士通といった会社はメーカーであるが、SIサービスも提供しているため、メーカー系SIerと呼ばれるカテゴリーに属する。元はコンピュータメーカーだったIBMなども今ではこれに当てはまる。モノからサービスへの人々の嗜好が変化する中で、メーカーもSIerの業務を取り入れざるを得なくなっているからだ。

 

しかし今回は、メーカーは物を作る会社、SIerはシステムを作る会社だと単純に考えて、両者を比較してみると色々と変なところに気づく。

 

近年、日本メーカーは元気がないと言われる。1つの原因は、シーズ(企業の技術)ありきの製品開発しかできていなかったことである。アップルのように洗練された製品、ユーザーの利用しやすさの観点から作られた製品には完敗してしまった。

 

もう一つは、垂直統合型、自前主義のビジネスモデルである。設計から開発、製造までを全て自社で取り組むスタイルが問題だ、という指摘は数々のビジネス書で登場する。ノウハウの割に人件費の高い日本人に、全ての工程を任せるのではなく、付加価値の低い製造工程などは、アウトソーシングするべきだった、という指摘だ。結果論ではあるが、実際韓国勢はそういった生産方法を選択することで、勝利をおさめた。

 

一方、SIerも業績が芳しい訳ではない。実際にはメーカー以上に過酷な問題を抱えている。SIerの一番大きな課題はおそらく、ITゼネコンと呼ばれるものである。これは社会的観点でもビジネス的観点でも問題である深刻な構造であるが、今回はビジネス観点の問題点のみについて述べる。

 

その前に、ITゼネコンについてであるが、これはその名の通り建築業界のゼネコンが由来である。一番頂点に位置する(すなわち直接顧客企業から案件を受注する)SIer(元請け)が下請け企業(1次請け)に仕事を回して、その下請けがそのまた下請け(2次請け)に仕事を回して、さらにその下請けが・・・というように下へ下へと仕事が割り振られていくような構造である。5次請けぐらいまであるという話も聞く。なお、元請けをプライムコントラクター、それ以降をサブコントラクターという言い方もする。

 

一般的に、上位に位置する(プライムコントラクターに近い)会社ほど、上流工程(企画、設計、管理)を担当することになり、下位に位置する会社ほど、下流工程(製造、プログラミング)を担当することになる。そのため、会社ごとに蓄積するノウハウが異なるのだ。

 

上位の会社は管理(プロジェクトマネジメント)のノウハウがたまる一方、プログラミングなどを理解している人が少なくなり、逆に下位の会社ではプログラミングなどの技術力は持っているが、チームをまとめる経験もスキルもない人ばかりになっていく、というわけである。結果的に良いシステムができなくなってしまう。

 

そんな背景もあり、SIerで少し前から注目されているのが、一気通貫型、自前主義のシステム構築である。技術をわかっている人がやるからこそ、良い設計ができ、管理もできる、という発想に基づいている。実はこれ、現代のメーカーと真逆の考え方なのだ。

 

メーカーでは垂直統合型を脱却するべきだと言われ、SIerでは垂直統合型が推奨されつつある。なぜ、このような違いがあるのかというと、SIerにおいては、まだ製造工程の自動化ができないからである。

 

おそらく、メーカーにおいて、生産の自動化が当たり前に行われる前は、今のSIerと同じような指摘があったのではないかと察する。逆に言うと、プログラミングが自動化される時代にさえなれば、今のようなスタイルが健全ということにもなるのかもしれない。SIerがメーカーの歴史から学ぶのであれば、悲しいことに、私たちはプログラマーを無くす努力をしていかないといけないのだ。