IT企業。その定義はもはや「グローバル企業」と同じくらいに意味を成さない言葉になっている。
就職の時に「グローバルの舞台で活躍したい」みたいなことを言う人が一定数いた。面接等では、「グローバルに働くと言っても海外を転々と渡り歩いて仕事をするのか、特定の外国で仕事をするのか、あるいは日本の中で外国人たちと一緒に仕事をするのか、色々ありますよ〜」みたいな補足をしてくれる人もいた。
でも、グローバルに働く、というのは仕事の本質からはかなり遠いところにある。グローバルというのは範囲を示す言葉でしかないからだ。市場となるターゲットの範囲、あるいはステークホルダとの交流範囲でしかない。何をするのか、どんな価値を提供するのか、そういうものが一切含まれていない。
だから、グローバル企業という言葉はあってもグローバル業界、みたいな言葉は使われない。トヨタは自動車業界の中のグローバル企業だ、みたいに企業の一つの側面を表すものである。
では、IT企業とは何か。Google、Apple、Microsoft、Amazonなどを連想する人もいるだろう。あるいは、楽天、Yahoo、ソフトバンクなどをイメージする人もいるかもしれないし、サイバーエージェントやDeNAなどが思い浮かぶ人もいるはずだ。これらをまとめてIT業界などと言ったりする。
だが、「IT」も「グローバル」同様、仕事の本質ではない。メディアであってコンテンツにはなりえない。
例えば、AmazonはIT企業ではなく、物流企業である。ただ物流の手段としてITを活用しているだけなのだ。ITを活用した結果、物流の価値が格段に高まっただけなのである。サイバーエージェントについても、昔なら広告業界、今はゲーム業界に位置する企業である。確かにITを活用しているが、ITは提供する価値そのものではない。
IT業界という枠組みの中でも、会社によって全然やってることは違うのである。また、「ITを活用している」だけでIT企業になるのであれば、大企業のほとんどはIT企業ということになってしまうだろう。つまり、「IT企業で働いています」というのは「私は日本人です」というぐらい、何の意味も持たない言葉になりつつあるのである。
強いて言えば、ソフトウェアメーカーとかSIerとかは私の考えるIT企業に近かった。それは間違っていないと思う。でもIT企業に近い、ということはコンテンツとしての価値を生み出す機会は少なくなる。
ソフトウェアメーカーであれば、何のための、何ができるソフトウェアなのかが重要で、それはSIerについても全く同じである。そしてSIer、その「何のための」の部分は大きい会社に入ってしまうと、人事次第となる。さらに言えば、それを決めるのは先にいる顧客である。
「何のための」すなわちコンテンツを突き詰めたい人は、ユーザー企業のシステム部門に転職していったりするらしいが、こうなると、日本の会社ではソフトウェアの開発、すなわちメディアの部分の製作に携わる機会がほとんどなくなる。こうなるともはやIT企業ではない。
ただ、IT業界全体として、ITを単なる手段ではなく、それ自体をサービスとして価値あるものにしようとする流れがきている。これはすなわち、IT企業からの脱却なのである。ITを活用する〇〇企業になろうとしているのだ。
転職を考えた時に、「IT企業の中ならどれがいいか」、みたいな考え方をしても無駄だと思った。