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SIerのデジタル化への対応とは

最近、「デジタル」という言葉をあらゆるところで耳にするようになってきた。デジタルトランスフォーメーション、デジタルビジネス、デジタル時代などなど。これは最近になって登場したキーワードだけれど、考え方や概念のようなものは結構前からある。

 

いわゆる「攻めのIT投資(SoE)」とかフロントビジネスにITを活用していく、という意味合いで使われていることが多い。が、個人的にはUberとかAirbnbなどに代表される「ディスラプター」と呼ばれる存在がデジタルビジネスと関連付けて話されることが多いと感じる。なので、あえて違いを述べるとすれば、IT企業が直接市場へサービスを投入する時代になった、ということだ。

 

元々のITといえば、バックヤード系の業務の効率化がメインだった。いかにしてコストを削減するかに主眼が置かれていた。会計処理など、それ自体がビジネスとしての価値を生み出すわけではない業務がシステム化の対象だったのだ。

 

そして、時代とともにITをサービスに活用しようとする動きが主流になっていった。要するにIT技術を前提としたビジネスモデルを構築する、という考え方だ。少しレガシーなものだとオンラインショッピングなんかも一つの事例である。Webブラウザからの決済を前提としたシステム構築をすることで売上の増加を目論むものだ。攻めのIT投資というとごく最近のような気もするが、実はかなり前から存在していたこともおわかりだと思う。

 

ただし、オンラインショッピングという仕組みであれば、基本的には商用をエンドユーザに提供している企業(事業部門やユーザ企業)がSIer(IT部門)にシステム開発を依頼することによって開発されていた。

 

もちろん、業務知識がなければ本当にユーザによって良いシステムを作ることはできないので、SIerは業務知識を持つことを求められていた一方で、事業部門もSIerに丸投げするのではなく、共にサービスについて考える姿勢が求められていた。つまり、事業部門とIT部門がコラボして進めていく必要があったものの、あくまでもサービスの提供者は事業部門でIT部門が事業部門にシステムを提供する、という役割に分かれていた。

 

しかし、UberAirbnbはどうだろう。彼らはITを活用し、自らがサービスを提供する企業として君臨した。これまでのSIチックな商売であれば、タクシー会社と連携してサービスを検討し、タクシー会社を顧客とするシステム販売モデルとなったってよかったのだ。Airbnbだってホテル業界に対してシステムを販売するモデルになってもおかしくはなかった。けれど、彼らはCtoCの仕組みを活用することで、サービス提供会社の資産力を不要にしてしまったのだ。

 

SIerで働いていると、こういう未来がくることは何となくわかっていた。というのも、お客さんから入ってくる声は「もっと、こちらの業務を理解した上での提案をしてほしい」というものがほとんどだ。はっきり言ってお客さん以上にお客さんのビジネスや業務に対する理解を求められる。もちろん、SIerとしてはそういう方向にいくしかないこともわかっていた。一方で、「では、そうなったときに果たしてお客さん企業は必要なのだろうか?」という疑問を常に持っていた。

 

もちろん、その会社にしかない資産や商品などがあって、それらが外部調達不可能なものであれば、それでもなお手を組む意味はあるのかもしれない。でも、業務に対する知見をユーザ企業に期待しているだけであって、それすらも自分たちが理解しなければビジネスを創出できないほどITと絡み合っている現代において、SIerから見たときのユーザ企業の存在価値なんてない。

 

 

そして、真逆のケースもある。ユーザ企業が自分たちでITを活用することでサービスを強化するパターンだ。その代表格は誰もがご存知アマゾンである。今でこそ、アマゾンというとIT企業のイメージが根強いけれど、元々は単なる本屋さんだったはずである。彼らはITを外部に委託せず、自分たちの強みとして取り込むことでIT企業としてはもちろんのこと、物流企業としても大成功を収めている。

 

近年、Fintechに始まり、Edtech、Agritech、Medtechなど、〇〇techというキーワードの出現が後を立たない。おそらく数十種類ぐらいある。これの本質も、もはやITだけでは何の価値も生み出せないし、サービスを提供する会社が自らITを駆使していかなければならない時代に本格突入した、ということが示唆される。近い将来、「IT企業」とかtechみたいな造語すら使われなくなっていくことが予想できる。

 

こうなってきたときに、SIerというのは本当に実態のよくわからない組織である。すでに、今うちの会社は何の会社なのか、私はよくわからない。雑にいえば、信頼だけは高いただのベンチャー企業群である。(ただし、ベンチャースピリットは何もない。)

 

もうユーザ企業は要らない、という話をしたが、BtoCビジネスに比べて、BtoBビジネスはリスクが小さいので、その緩衝材としての役割を果たす存在としてユーザ企業に期待している側面もある。SIerは工数ビジネスなので、ぶっちゃけシステムを導入した結果、ビジネス的な成果が得られなくとも開発さえすればその稼働分は売上を生み出せるぬるゲーなのだ。そして、これこそがSIerが今だにユーザ企業相手にシステムを売るモデルを採用している理由だと思う。

 

しかし、これに甘んじていられる時代もそう長くはない。資金余力が残っている会社であれば、いつまでも無駄金をはたいてくれるのかもしれないが、IT投資はかなり業績にインパクトがある。事業化につながらないシステムを開発し続けたところで、ユーザ企業がジリ貧になって転げ落ちていくときは、SIerも一蓮托生だ。開発案件がなくなって、売上が取れない。かくいう私の担当も今開発案件は0で、どうやって組織を残していくのかに必死になっているが、ぬるゲーに甘んじていた人たちは今更何もできない。

 

そして、お客さんの事業を成長させられるほどの、業務知見があるならば、もはやSIという形態ではなく、自分たちで直接BtoCサービスを展開していくのが最も良いと思う。はるかにビジネスを展開しやすいし、顧客のレベルによって自分たちの業績が決まることもない。これがSIerとしてのデジタル化への対応なのではないかと思っているが、どうもSIerではデジタルビジネスを活用した提案をしていく必要がある、などとまだSI形態にこだわっているから残念である。